記事概要

対象者
  • 高瀬隼子さんの書籍を読んでみたい方
  • 純文学に挑戦してみたい方
  • 『おいしいごはんが食べられますように』以外の長編にどんな作品があるか知りたい方
目的
  • 手に取りたい高瀬隼子さんの作品が見つかる

いちごバター

読書歴5年、2人で500冊以上読んできた本好き夫婦が、大好きな高瀬隼子さんの長編作品の面白さをご紹介します!

高瀬さん作品の特徴

特徴

リアル社会の通常と異常を、みずみずしく描く

おすすめしたい人

▶ 読みやすさと“考える余白”を両立したい方

高瀬隼子さんの作品は、比較的コンパクトな分量(100〜200ページ前後)で、文体も平易です。

そのためサクッと読める一方で、純文学的なテーマ性や解釈の余地がしっかり残されています。

▶ ぶっ飛んだ設定を望んでいる方

リアルの世界に根差しながらも、一つねじが飛んだ設定が物語に組み込まれています。

▶ 常識や“当たり前”に違和感を持っている方

作品では、出産・清潔感・弱者救済・食事・満員電車・世間・コンプレックスなど、日常に溶け込んでいる価値観が静かに問い直されます。

強い主張ではなく、小説の中で自然に視点をずらされる感覚が特徴です。

▶ 感覚的な読書体験を味わいたい方

身体感覚や内面描写が非常に繊細で、読者の感情を直接揺さぶってきます。

みずみずしさと同時に、どこか気持ち悪さや痛みも伴うのが特徴です。

読む順番は??

それぞれ独立しているのでどの順番でもOK!

一番読みやすい作品は?

文体が易しくどの作品も読み進めやすいです。

その中で、テーマでいえば、『犬の形をしているもの』、結末でいえば『いい子のあくび』が、分かりやすいと私たちは感じました。

作品紹介

犬のかたちをしているもの

そこに愛はあるのか?を一人の女性の本心から紡ぎだす物語

【出版年 / 分量 / 受賞歴】

2020年 / 文庫145ページ / 第43回 すばる文学賞 受賞

【面白ポイント】

そこに愛はあるのか?を一人の女性の本心から紡ぎだす物語です。

恋人の浮気相手との間にできた子供を育ててほしいと言われるところから、物語は始まります。

それを受け入れていく過程を軸に物語が進む中で、セックスに対する感覚や愛のかたちが鋭く問い直されていきます。

かつて飼っていたロクジロウへのまぎれもない愛と比べたとき、自分は本当に恋人を愛しているのかという疑問が浮かび上がる構図が印象的です。

田舎の空気感、会社の陰口、身体感覚の描写まで含めて、高瀬さんのエッセンスが詰まったデビュー作です。

水たまりで息をする

風呂に入らない夫を通して、日常に潜む不穏が浮かび上がる物語

【出版年 / 分量 / 受賞歴】

2021年 / 文庫168ページ / 第165回 芥川賞 候補

【面白ポイント】

風呂に入らない夫を通して、日常に潜む不穏が浮かび上がる物語です。

夫が風呂に入らないという印象的な一文から始まり、匂いや垢の感触まで伝わるような五感を刺激する文章で読者を物語に引き込みます。

その行為はやがて、会社からのクレームや年長者の決めつけなど社会の視線を呼び込み、ささやかな生活が不穏に揺らぎ始めます。

東京と田舎それぞれの人間関係の嫌さが対比される構図や、水たまりで拾われた魚「台風ちゃん」に漂う隠喩も興味深いポイントです。

読みやすさの中に不快な感覚と示唆が巧みに織り込まれ、最後まで物語に惹き込まれてしまう作品です。

おいしいごはんが食べられますように

ごはんを通して、社会に蔓延る「当たり前」に物申す物語

【出版年 / 分量 / 受賞歴】

2022年 / 文庫143ページ / 第167回 芥川賞 受賞

【面白ポイント】

ごはんを通して、社会に蔓延る「正しさ」に物申す物語です。

「ごはんは楽しく食べるもの」という社会の空気に嫌気がさしている二谷の違和感が、ページの端々からにじみ出ています。

恋人の芦川さんとの食卓や、虚弱さを“守るべきもの”とする職場の構図が絡み合い、食べるという行為が次第に社会批評へと変わっていきます。

不味そうにごはんを食べ、カップ麺をすすり、お菓子を潰す仕草には、結婚や同調を求める空気への静かな抵抗が宿っています。

食という最も身近な営みから、社会に蔓延る気持ち悪さを切り取る鋭さに、思わず自分の「当たり前」も問い直したくなる一冊です。

いい子のあくび

いい子の直子の強烈な内面を描く物語

【出版年 / 分量 / 受賞歴】

2023年 / 単行本122ページ / 第74回 芸術選奨 文部科学大臣新人賞(2024)の対象作

【面白ポイント】

いい子の直子の、強烈な内面を描く物語です。

歩きスマホの人を避け続けることや満員電車の不快さなど、日常の小さな苛立ちが積み重なり、直子の内側にある人間への嫌悪がはっきり描かれます。

ヨシオカくんの自転車にあえて避けずにぶつかる最初の場面や、物語終盤の場面などは、その憎悪の深さを象徴する印象的なシーンです。

一方で直子は、桐谷さん、望海、圭さんに対して相手に合わせた「いい子」を演じ続けており、その振る舞いにいい子たるゆえんを感じさせます。

そんな直子をまっすぐな人間だと思い結婚を考える大地との関係も含め、人の内面のリアルを突きつける一冊です。

うるさいこの音の全部

作家になったことで変質する周囲と自分を、むき出しに描いた物語

【出版年 / 分量 / 受賞歴】

2023年 / 単行本185ページ / ー

【面白ポイント】

作家になったことで変質する周囲と自分を、むき出しに描いた物語です。

長井朝陽の生活と、早見夕日の描く物語が交互に進む構成が斬新です。

テレビ出演や芥川賞受賞をきっかけに、職場、地元、家族の反応が変わり、本人も気づかないうちに周囲との関係が変質していく苦悩が描かれます。

とくに、善意で踏み込んでくる人たちや、作品と作家を混同した視線は、読んでいて気持ちが悪くなります。

期待に応えようとするほど本心を言えなくなり、気づけば嘘で自分を取り繕ってしまう感覚がとても生々しく残ります。

め生える

外見の基準がひっくり返った世界で、劣等感と優越感をえぐり出す物語

【出版年 / 分量 / 受賞歴】

2024年 / 単行本154ページ / ー

【面白ポイント】

外見の基準がひっくり返った世界で、劣等感と優越感をえぐり出す物語です。

大人になるとほぼ全員がはげるという設定自体がまず抜群に面白く、その世界で人々の価値観がどう移り変わるのかが生々しく描かれます。

とくに真智加に残り続けるテラの言動の記憶や、そのときの感情の揺れは、外見の問題が単なる見た目だけに起因するものではないことを示唆します。

亜角の衝動、佐島の解放感、琢磨と希春が向き合う新たな不安も重なり、劣等感が引き起こすさまざまな出来事が丁寧に描かれます。

設定の奇抜さにとどまらず、そのテーマの普遍性が強く印象に残る一冊です。

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