記事概要

対象者
  • 芥川賞作品を読んでみたい方
目的
  • 2016~2020年の芥川賞作品のポジショニングマップと作品ごとの相関図を通して、読みたい1冊が決まる。

いちごバター

読書歴5年、2人で500冊以上読んできた本好き夫婦が、2016~2020年の芥川賞作品のマッピング図と各作品の相関図(人物関係や感情のやり取り)をまとめていきます!

2016年-2020年芥川賞13作品のポジショニングマップ

【横軸】

物語性⇔文学性

※大前提、芥川賞作品はすべての作品に文学性があります。その中で、どれだけ物語性があるかどうかを主観的に判断して位置を決めています。

【縦軸】

幻想的⇔現実的

※現実から逸脱した設定が多いほど、幻想的な作品として位置を決めています。

読書初心者の方へのおすすめは、「物語性」があり、「現実的」な設定の作品です!

2020年下半期

推し燃ゆ | 宇佐見りん

普通に生きれない私を支える【推し】を切実に描いた物語

【分量】

文庫149ページ

【面白ポイント】

普通に生きれない私を支える【推し】を切実に描いた物語です。

病名のつく気質を抱え、うまく生きられないあかりの閉塞感が、家族やバイト先での出来事を通してリアルに伝わってきます。

母の注意、姉の不満、父の月並みな言葉が積み重なるほど、あかりの居場所のなさが際立ちます。

そんな中で出会った上野真幸という推しが、あかりにとって生きる意味そのものであり、「背骨」のような存在として描かれています。

推しの炎上と引退があかりの心を揺らすことで、推しへの切実な思いと時勢を鋭く映し出す一冊です。

2020年上半期

首里の馬 | 高山羽根子

他者の経験を言葉で伝承する「限界」と「意思」を示した物語

【分量】

単行本158ページ

【面白ポイント】

首里の馬 相関図

他者の経験を言葉で伝承する「限界」と「意思」を示した物語です。

「未名子の仕事」や、「宮古馬のヒコーキ」という生きた情報の象徴がつくる幻想的な世界観のなかで、情報を残したい意志と、どうしても正確には伝わらない現実が浮かび上がります。

資料館、宇宙、南極深海、戦時下といった要素が並ぶことで、世界には取りこぼしを含まない完全な情報はないのだと感じさせられます。

沖縄に残る戦争の記憶を重ねることで、記録や継承が常に不完全であることの重みが具体的に迫ってきます。

それでもその限界を引き受けながら未来へ託そうとする未名子の姿に、この作品の強い示唆と美しさがあります。

破局 | 遠野遥

変わらない男と、変わっていく周囲との破局を描いた物語

【分量】

単行本141ページ

【面白ポイント】

破局 相関図

変わらない男と、変わっていく周囲との破局を描いた物語です。

主人公・陽介は筋トレや性欲、人への優しさと意地悪さを併せ持ちながらも、一貫して変わらない存在として描かれます。

しかしその周囲では、麻衣子や灯、佐々木といった人物たちが少しずつ歪み、陽介との関係性が崩れていきます。

特に、麻衣子の意地悪さの顕在化や、灯の性に狂い始める様子などは、変わりゆく周囲を象徴する描写です。

その積み重ねの先に、避けられなかったように強烈なシーンで関係が断ち切られ、読後に強い余韻を残す一冊です。

2019年下半期

背高泡立草 | 古川真人

衰退に抗う人の姿を、島と草刈りに重ねて描くメタファー文学

【分量】

単行本143ページ

【面白ポイント】

背高泡立草 相関図

衰退に抗う人の姿を、島と草刈りに重ねて描くメタファー文学です。

2世代の親子が草刈りをする現在の物語と、島の歴史が断片的に差し込まれる構成で展開していきます。

一見つながりのない歴史の積み重ねが、島の繁栄と衰退という普遍的な流れを浮かび上がらせます。

高く伸び続ける草を刈る行為には、衰退に抗い続ける人の姿が重なります。

メタファーに富んだ表現と構成によって、読み終えたあとこそ味がする文学的な一冊です。

2019年上半期

むらさきのスカートの女 | 今村夏子

ストーカー女性の視線で追う、不思議な女性の人生を切り取った物語

【分量】

文庫本164ページ

【面白ポイント】

むらさきのスカートの女 相関図

ストーカー女性の視線で追う、不思議な女性の人生を切り取った物語です。

むらさきスカートの女がイエローカーディガンの女に徹底して見つめられながら、同じ職場に就き、周囲との関係の中で振る舞いや立場が少しずつ変えられていく様子が描かれます。

ホテルのチーフ清掃員たちと研修から打ち解け、やがて疎まれていく流れには、女性社会の陰湿さが色濃く表れています。

さらに所長との不倫が物語を大きく動かし、最後には破滅的な場面へとなだれ込んでいくため、読む手が止まりません。

それでもなお、イエローカーディガンの女は何者なのか、物語はどこへ向かっているのかが明確には定まらず、その不思議な吸引力が読後まで残る一冊です。

2018年下半期

ニムロッド | 上田岳弘

人間活動の積み上げから逃れられないことと、その行き着く先を暗示する物語

【分量】

単行本136ページ

【面白ポイント】

ニムロッド 相関図

人間活動の積み上げから逃れられないことと、その行き着く先を暗示する物語です。

ビットコインの仕組みと、開発者と同じ名前を持つ主人公の設定が、人間の営みと記録の関係を強く意識させます。

ニムロッドの小説に登場する「ダメな飛行機」は、積み上げから完全には離れられず、やがて感情すら記号化されていく未来を示唆しています。

田久保紀子もまた、中絶と離婚という経験を抱えながら、ビジネスの積み上げを止められない存在として描かれます。

そして、主人公の無感情な涙を契機にたどり着く結末が、人間活動の積み上げから逃れるすべがないことを静かに暗示する一冊です。

1R1分34秒 | 町屋良平

若いボクサーの「いま」を剥き出しに描いた物語

【分量】

単行本140ページ

【面白ポイント】

1R1分34秒 相関図

若いボクサーの「いま」を剥き出しに描いた物語です。

対戦相手への感覚、試合中の感覚、敗北の感情、試合後の身体感覚、そして次へ向かう気持ちなどが、直接的に鮮明に描かれます。

次の試合に向けてのウメキチとの関係の変化や、ガールフレンドで埋める孤独が、一瞬で決する勝敗のために積み重ねられてきたものの重みを強く感じさせます。

さらに、友人による映画化という構造が、現在を生きる「ぼく」に別の視点を持ち込み、物語に奥行きを与えています。

そしてすべては、心との試合1ラウンド1分34秒という一瞬に凝縮されていく、その濃密さに圧倒される一冊です。

2018年上半期

送り火 | 高橋弘希

いじめの加害者・被害者・傍観者を生々しく描く、緊張感が途切れない物語

【分量】

単行本120ページ

【面白ポイント】

送り火 相関図

いじめの加害者・被害者・傍観者を生々しく描く、緊張感が途切れない物語です。

転勤族の父について青森の全校生徒わずか12人の中学校に転校した歩は、転校慣れした適応力を持つ一方で、逃げ場のない人間関係の中に放り込まれていきます。

リーダー的存在の晃が稔に行ういじめは、遊びの形を取りながらも命の危険すら感じさせるものも含まれており、その生々しさに胸がざわつきます。

同級生たちも歩も、見て見ぬふりをしながら自分に矛先が向かないよう振る舞い、ときには進んで加担しようとする姿も生々しく描かれます。

終盤に第三中学OBが登場してからは物語が一気に加速し、とんでもないラストシーンに至るまで目が離せない一冊です。

2017年下半期

百年泥 | 石井遊佳

百年泥の表出が、沈めていた記憶を掘り起こす物語

【分量】

単行本125ページ

【面白ポイント】

百年泥 相関図

百年泥の表出が、沈めていた記憶を掘り起こす物語です。

主人公はインド・チェンナイで泥を眺めながら、元彼や元夫、幼少期や母の記憶を次々と呼び起こされていきます。

どこか常識から一歩ずれた「私」の感覚や体験と、因縁の生徒テーヴァラージとの応酬、そして彼の人生の記憶がひも解かれていく構図が印象的です。

さらに、人々が泥からそれぞれの過去を掘り起こし、招き猫とガネーシャ、日本語の授業、飛翔通勤といった要素が日本とインド、現実と幻想の境界を揺らしていきます。

読後には、記憶は本当に沈めきれるのかという問いと、境界がほどけていくような不思議な余韻が残る一冊です。

おらおらでひとりいぐも | 若竹千佐子

孤独な老婦人が自己の内面やこれまでの人生に向き合い続ける物語

【分量】

単行本164ページ

【面白ポイント】

おらおらでひとりいぐも 相関図

孤独な老婦人が自己の内面やこれまでの人生に向き合い続ける物語です。

夫との死別や子供との疎遠の中で生きる桃子さんが、自身の内面「柔毛突起」と東北弁で対話する構造が文学的に新鮮です。

夫との半生の幸福を噛みしめる一方で、自分のエゴが噴き出し、孤独だからこその死生観が浮かび上がります。

さらに、ばっちゃから教わったことや母との確執、捨てたはずの地元が今も自分の中心にあると気づき、嫌だった母の態度を自分も子供に繰り返していることに思い至ります。

孤独の中で内面と向き合い続けた先にたどり着く境地と、そこに差し伸べられる救いの結末が印象に残る一冊です。

2017年上半期

影裏 | 沼田真佑

震災前後の岩手を舞台に、人に裏面があることを示す物語

【分量】

単行本94ページ

【面白ポイント】

影裏 相関図

震災前後の岩手を舞台に、人に裏面があることを示す物語です。

岩手に転勤してきた今野と日浅が友人関係を築いていく一方で、日浅が姿を消したあとに、学歴詐称や金の貸し借りといった隠されていた事情が浮かび上がってきます。

その過程を通して、裏表のない関係を求める者、裏面を表に出すことにしたもの、自分を飾る者など、人の性質がさまざまな角度から描かれていくのが面白いです。

とくに、震災という抗えない大きな出来事が、人の内に押し込められていた影の部分を噴き出させる構図に、この作品の鋭さがあります。

読み終えると、人の影裏についてつい考えさせられる、苦みの残る一冊です。

2016年下半期

しんせかい | 山下澄人

経験と認識のずれが、不思議な浮遊感を生む物語

【分量】

単行本163ページ(本編129ページ+前譚)

【面白ポイント】

しんせかい 相関図

経験と認識のずれが、不思議な浮遊感を生む物語です。

北海道・富良野の谷に集められた俳優・脚本家志望の若者たちが、農作業や家づくりをしながら【先生】のもとで学ぶ日々が描かれます。

主人公の山下澄人は、天やけいこに好意を寄せあっているようでいて、その感情が身体的な経験に結びつかず、どこかふわふわした印象を残します。

さらに、自分の身体の状態をうまく認識できずに倒れてしまう場面や、歌舞伎町での経験に基づかない記憶が重なり、現実と幻想の境目が少しずつ揺らいでいきます。

その独特な筆致によって、読んでいるこちらまで「本当に経験したこと」と「そう認識していること」の違いを見失っていく、不思議な読後感の一冊です。

2016年上半期

コンビニ人間 | 村田沙耶香

コンビニ人間が世の普通に適合しようとする物語

【分量】

文庫本161ページ

【面白ポイント】

コンビニ人間が世の普通に適合しようとする物語です。

自分を持っていないがゆえに、すべてがマニュアル化されたコンビニ店員という職に居場所を見出し、18年間アルバイトを続けた恵子の様子が描かれます。

36歳にもなると、両親や地元の友人が求める「結婚するか正社員になるべき」という世の価値観が、少しずつ圧力として迫ってきます。

それに抗うため、同じような境遇の白羽さんとの同棲を始め、「普通に見えるため」に世に歩み寄ろうとした点が強烈です。

それでも最後に恵子が選び取る居場所がコンビニであることに、社会に適合するとは何かを考えさせられる一冊です。

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