記事概要
- 1度は名前の聞いたことのある日本の文豪の作品が気になる方
- 日本の文豪の作品の面白いポイントが分かり、手に取りたい作品が見つかる

いちごバター
読書歴5年、2人で500冊以上読んできた本好き夫婦が、これまで読んできた日本の文豪の作品をまとめていきたいと思います。

夏目漱石

こころ
罪の意識を持つ人間の苦悩の心に共感してしまう物語
【出版年 / ページ数】
1914年 / 文庫327ページ(本編のみ)
【読みやすさ】
■■■■□(4点/5点)=読みやすい
【概要】

罪の意識を持つ人間の苦悩の心に共感してしまう物語です。
憧れの存在である先生が抱える厭世観の正体が、衝撃的な過去の告白によって少しずつ明らかになっていきます。
先生、K、奥さんの三角関係の中で生まれる恋や嫉妬、友情の崩壊はあまりにも人間臭く、読んでいて胸が締め付けられます。
自分の過ちを一生許せないほどの真面目さが生む罪の意識には、共感してしまうからこそ心を強く打たれます。
人間の弱さとエゴを真正面から描いた、読後に深い余韻が残る一冊です。
前期三部作:『三四郎』『それから』『門』
後期三部作:『彼岸過迄』『行人』『こころ』
森鴎外

雁
ほんの小さなかけ違いで大きく運命が変わる切なさを描く作品
【出版年 / ページ数】
1915年 / 文庫152ページ(本編のみ)
【難易度】
■■■□□(3点/5点)=普通(森鴎外作品の中でもかなり読みやすい)
【面白ポイント】

ほんの小さな掛け違いが人生を分けてしまうことを静かに描いた物語です。
お玉と岡田は互いに気になり合いながらも、その想いが言葉にならないまま、すれ違っていきます。
サバの味噌煮や雁にまつわる出来事は些細なものですが、その積み重ねが運命を大きく変えてしまう点にリアリズムを感じました。
また、お玉と雁の重なりや、父との絆、離れてから募る寂しさも印象深く心に残ります。
現実もまた、気づかないほどの行き違いで大きく形を変えるのだと、読み終えてからじわりと実感させられる一冊です。
谷崎潤一郎

痴人の愛
理想から外れ、淫靡に変わった妻に支配される愚かな男の物語
【出版年 / ページ数】
1925年 / 文庫377ページ
【難易度】
■■■■■(5点/5点)=かなり読みやすい
【面白ポイント】

理想から外れ、淫靡に変わった妻に支配される愚かな男の物語です。
譲治の告白形式で語られることで、ナオミとの関係が少しずつ変質していく過程が非常に読みやすく伝わってきます。
理想の女性として育てたはずのナオミが、成長とともにハイカラ被れの狡猾な存在へと変わり、複数の男性と関係を持ちながら譲治を翻弄していく様子には強い不快感や同情を覚えます。
それでもなお彼女に惹きつけられてしまう譲治の姿は、恋愛における支配欲や依存といった誰しもが抱えうる感情を極端な形で浮かび上がらせます。
その果てに「支配したい」と「支配されたい」が同時に成立してしまう関係があるからこそ、マゾヒズム文学の代表と言われるのです。
芥川龍之介

羅生門
極限の中で「生きるための悪」が正当化される瞬間を描いた物語
【出版年 / ページ数】
1915年 / 文庫11ページ
【難易度】
■■□□□2点/5点)=短いがやや難しい
【面白ポイント】

極限の中で「生きるための悪」が正当化される瞬間を描いた物語です。
荒れ果てた京都と羅生門という舞台で、追い詰められた下人の心の揺れが克明に描かれます。
老婆との対話の中で、弱者であるはずの彼女が論理によって下人を追い込み、立場が反転する瞬間が強烈に印象に残ります。
わずか11ページとは思えないほど、人間のエゴと社会秩序の崩壊が凝縮されています。
短く読みやすいにもかかわらず、読後に倫理とは何かを突きつけられ、長く心に残り続ける一作です
『鼻』など
川端康成

雪国
美しい徒労に締め付けられるような切なさを覚える物語
【出版年 / ページ数】
1948年 / 文庫148ページ(本編のみ)
【難易度】
■■□□□(2点/5点)=やや難しい
【面白ポイント】

美しい徒労に締め付けられるような切なさを覚える物語です。
有名な冒頭から始まり、雪国の澄んだ世界の中で、人の感情のやりきれなさが丁寧に描かれていきます。
とくに島村に不器用ながらも全力で愛情を注ぐ駒子の姿は健気で、その思いが報われないことがいっそう胸を締め付けます。
さらに、島村が葉子にも惹かれていくことで、駒子と葉子の対照性が際立ち、関係の緊張感が物語に深みを与えています。
ラストまで行間を味わうことで、切なさと悲哀が重なり合う余韻が長く心に残る一冊です。
宮沢賢治

銀河鉄道の夜
孤独の果てに、愛と犠牲の意味へたどり着く物語
【出版年 / ページ数】
1934年(宮沢賢治死後に未完成のまま出版) / 文庫76ページ(本編のみ)
【難易度】
■■■□□(3点/5点)=普通(文体は柔らかいが想像力を要する描写が多い)
【面白ポイント】

孤独の果てに、愛と犠牲の意味へたどり着く物語です。
孤独に押しつぶされそうなジョバンニが、銀河鉄道という不思議な旅の中で、さまざまな出来事に触れながら少しずつ世界の見え方を変えていきます。
はじめは霧の中を進むように感じられる物語ですが、カムパネルラの犠牲を軸に振り返ることで、鷺捕りや沈没船の人々の存在まで鮮やかに結びついていきます。
その積み重ねによって、愛とは何か、誰かのために差し出すことの重みとは何かが胸に迫ってきます。
読み終えたあとには深い衝撃とともに、この作品の底知れない深さに思わず立ち止まりたくなるはずです。
太宰治

人間失格
命を削るように書かれた、堕落の物語
【出版年/ ページ数】
1948年 / 文庫150ページ(本編のみ)
【難易度】
■■■□□(3点/5点)=普通
【面白ポイント】

命を削るように書かれた、堕落の物語です。
社会の虚構にうまくなじめない葉蔵が、道化の仮面でどうにか生き延びながら壊れていく姿に、強く引き込まれます。
ツネコとの心中未遂による生き残った罪、シヅコの幸福を自ら壊してしまう感覚、ヨシコの純真の崩壊が、葉蔵を後戻りできないところまで追い詰めていきます。
さらに堀木や薬屋の女性との関係が、その堕落を偶然ではなく必然のように見せてくるところも、この作品の恐ろしさです。
社会の息苦しさや嘘に違和感を覚えたことのある人ほど、自分の影を重ねずにはいられない一冊です。
三島由紀夫

金閣寺
「美」に囚われた青年が、自分を開放するために金閣寺を焼く選択へと至る物語
【出版年/ ページ数】
1956年 / 文庫330ページ(本編のみ)
【難易度】
■■■□□(3点/5点)=普通(文章は読みやすいが、その解釈がやや難しい)
【面白ポイント】

「美」に囚われた青年が、自分を解放するために金閣寺を焼く選択へと至る物語です。
吃音によって内面と外面の隔たりを抱える溝口が、「美」の象徴である金閣に憧れながらも、それによって現実に踏み出せず縛られていく構図が強く印象に残ります。
周囲の人間関係の中で自己否定を深める一方、鶴川の肯定と柏木の現実的な価値観が対照的に作用します。
さらに、導いてくれるはずの老師にも救われないことが、溝口にとっての救済の不在を決定的なものにします。
その絶対的な「美」を焼き払うという選択に至る過程が、美への執着と自己否定が極端な形で結実していく様子を描き出す一冊です。
